106 人殺しのワイン Le Vin de l'assassin
106 人殺しのワイン
わいの嫁はんは死におった、わいは自由や!
そやさかい、わいは思う存分飲める。
わいが一文無しで帰った日にや、
あいつの叫びは、わいの神経をずたずたにしおった。
王と同じくらい、わいは幸せや。
空気はきれい、空はすばらしい . . .
うちらは似たような夏を経験してた、
その時わいはあいつに惚れてまった!
恐ろしい渇きが、それはわいを引き裂いとるが、
満たされるのに必要であろうものは、
あいつの墓に入る量と同じくらいのワイン、
― それは少なく言うてるんやないで。
わいはあいつを井戸の底に投げたんや、
しかも縁石のすべてを、あいつの上に
押しやりさえもした。
― わいはあいつを忘れよう、それができるなら!
愛の誓いの名において、
それはうちらを決して解放せえへんし、
うちらを仲直りさせるためのもので
うちらが陶酔した良き時のものやけど、
わいはあいつに夕方、薄暗い街道の
デートを哀願したんや。
あいつはそこに来た! ― あほな女!
うちらはみんな大なり小なりあほや!
あいつはまだきれいやった、
ほんまにくたびれているんやけど! このわいは、
あいつをあまりにも愛しとったんや! そんなわけで
わいはあいつに言うた、「この世からいね!」
誰もわいを理解するはずがない。これらの
あほな酒飲みらのなかのひとりでも
病的な夜々のなかで思い浮かべるやろか、
ワインを屍衣にすることなんか?
このやくざやらは不死身であり、
鉄の機械のようやけど、
決して、夏でも冬でも、
本当の愛を知らへんかった、
それは黒い呪縛、
地獄のような不安の一団、
毒のガラス瓶、涙、
鎖や骸骨の物音を伴のうておるが!
― ただいま、自由でひとりや!
わいは今夜、死ぬほど飲むでー。
そやから、こわいもんや悔いもなく、
わいは地べたに寝るんや、
そして犬みたいに眠るんや!
荷車、重い車輪で
石やら泥を積んどるが、
車両、ひどくいきりたっとるが、
それらがわいの罪深い頭を押しつぶすか、
わいを真ん中で切ってしまうこと、
そんなことはどうでもよか、「神」、
「悪魔」、「聖体拝領台」も同じや!