77 憂鬱 Spleen
77 憂鬱
私は雨の多い国の王のようだ、
富裕だが不能、若いがとても老けている、
彼は宮殿の教師らの平身低頭を軽蔑しているが、
犬やほかの動物にも退屈している。
何も彼を楽しませられない、ジビエ然り、鷹然り、
バルコニーの正面で死にかけている彼の人民然り。
お気に入りの道化師の珍妙なバラードは
もはやこの残酷な病人の顔を楽しませない。
白ユリの紋章のついたベッドは墓に変わっている、
それで衣装係の侍女たちも、王族は皆美男であるが、
この若い骸骨から微笑を引き出すために、
みだらな装いをもう思いつくことができない。
王のために黄金をつくり出す学者も、
腐敗の要素を彼の体から摘出できなかった。
しかもあの血の浴槽のなかで、それはローマ人から
我々に伝わり、晩年に権力者たちが思い出すものだが、
そのぼう然とした死体を再び温めることはできなかった。
そこに流れるのは、血の代わりの「忘却の川」の緑の水。
76 憂鬱 Spleen
76 憂鬱
私が千歳であっても、それ以上の思い出を、私は持っている。
大きい箪笥は、引き出しに一杯の、勘定書、
詩句、甘い手紙、訴訟関係、恋の歌、
領収書に巻かれた重い髪も一緒にあるのだが、
私の情けない脳ほど秘密を隠してはいない。
その脳はピラミッド、巨大な地下納骨堂、
それは共同墓穴よりも多くの死者が入っている。
― 私は月に嫌われた墓場、
そこでは後悔のように長い蛆虫たちが這いまわり、
私の最愛の死者たちに襲いかかる。
私は色あせた薔薇でいっぱいの古い閨房、
そこでは時代おくれのモードが乱雑に散らばり、
悲しげなパステル画や青白いブーシェの絵だけが、
栓のあいた小瓶の匂いをかいでいる。
長いことでは、びっこの日々に勝るものはない、
その時は、雪の多い年の重い雪にうもれて、
アンニュイ、陰鬱な無関心の果実が、
不滅の規模に及んでいる。
― 今後は、オー生きている物質! 君はもう、
花崗岩でしかない、それは漠然とした恐怖に囲まれ、
霧のサハラの奥にまどろんでいる。
老いたスフィンクスは、気にとめない世間に無視されて、
地図上では忘れられ、そしてその強固な気質により
沈む太陽の光にしか歌わないのだ。
75 憂鬱 Spleen
75 憂鬱
雨月は、都市の全体にいらだって、
その水がめから、たっぷりと流し込む、
暗闇の冷たさを墓地の隣の青白い住人たちに
そして死すべき運命を霧深い場末に。
私の猫は、タイルの上で敷き藁を探しながら
疥癬の痩せた体を休みなく揺すっている。
ある老いた詩人の魂は、雨どいをさまよう、
寒がり幽霊の悲しい声とともに。
大鐘は嘆き、すすけた薪は裏声で
風邪をひいた柱時計に伴奏している。
汚いにおいでいっぱいのトランプの、
水腫にかかった老婆の不幸な遺品だが、
美男のハートのジャックとスペードのクイーンが
自分たちの亡くなった恋を陰気に話している間に。
74 ひび割れた鐘 La Cloche fêlée
74 ひび割れた鐘
冬の夜々に、耳を傾けて苦く甘美なものは、
揺らめいて煙る暖炉のそばで、
霧のなかで歌うカリヨンの音にのせて、
ゆるやかに立ちのぼる数々の遠い思い出。
幸いなるかな、強い声帯をもつ鐘、
それは老齢にもかからわず、軽快で健康で、
敬虔な叫び声を正確に発しているのだ、
テントの下で寝ずの番をする老兵のように!
この私の魂はひび割れている、そしてアンニュイな
私の魂がその歌で夜々の冷たい大気を満たしたい時、
よくあることだが、弱ったその声は
負傷者の重いあえぎのように思われる。
その人は、血の海の端、死体の大山の下に忘れられ、
それから死ぬ、莫大な努力のなかで身動きもできずに。
73 憎しみの樽 Le Tonneau de la Haine
73 憎しみの樽
「憎しみ」は青白いダナイデスの樽だ。
狂ったような「復讐」は、赤く強い腕々によって、
死者たちの血と涙でいっぱいの大きな手桶で
樽の空虚な闇のなかに注ぎいれても無駄である。
「悪魔」がその深淵に秘密の穴をあけている、
それにより、千年の汗と努力が漏れ出てしまう、
たとえ「復讐」が、犠牲者たちを蘇らせ、
彼女らを締めつけるために、生き返らせても。
「憎しみ」は居酒屋の奥にいる飲み助だ、
そいつは渇きがリキュールから生まれ、レルネの
ヒュドラのように増えるのを常々感じている。
― だが幸せな酒飲みらは彼らの勝利者を知っている、
それなのに「憎しみ」は、哀れな運命を定められ、
決してテーブルの下で眠り込むことはできない。
72 陽気な死者 Le Mort joyeux
72 陽気な死者
豊かな地面に、それもエスカルゴでいっぱいだが、
私は深い穴を自分で掘りたい、
そこに私はゆっくりと私の古くからの骨を並べ
忘却のなかに眠っていいだろう、波間の鮫のように。
私は遺言が嫌いだ、そして墓が嫌いだ。
世間の一粒の涙を懇願するくらいなら、
生きながら、私は烏らを招き、
私の不浄な体の端々まで血まみれにつつかせよう。
オー蛆虫ら! 闇の仲間ら、耳がなく目もないな、
見よ、君らの方に、自由で陽気な死者が来るぞ。
悟りすました道楽者ら、腐りきった息子ら、
私の残骸を通って行け、悔いを残さないように、
そして私に言え、まだ何か責め苦があるかどうか、
魂のない死人らのなかの死人の、この古い体にとって!
豊かな地面に、それもエスカルゴでいっぱいだが、
私は深い穴を自分で掘りたい、
そこに私はゆっくりと私の古くからの骨を並べ
忘却のなかに眠っていいだろう、波間の鮫のように。
私は遺言が嫌いだ、そして墓が嫌いだ。
世間の一粒の涙を懇願するくらいなら、
生きながら、私は烏らを招き、
私の不浄な体の端々まで血まみれにつつかせよう。
オー蛆虫ら! 闇の仲間ら、耳がなく目もないな、
見よ、君らの方に、自由で陽気な死者が来るぞ。
悟りすました道楽者ら、腐りきった息子ら、
私の残骸を通って行け、悔いを残さないように、
そして私に言え、まだ何か責め苦があるかどうか、
魂のない死人らのなかの死人の、この古い体にとって!
71 幻想的版画 Une gravure fantastique
71 幻想的版画
この奇妙な亡霊の身なりと言えば、
骸骨の頭のうえに珍奇にかぶった
恐ろしげな王冠だけだ、謝肉祭の匂いもする。
拍車や鞭なしで、彼は馬を息切れさせている、
馬も彼のように幽霊で、黙示録のような駄馬、
癲癇のように鼻から泡を吹いている。
空間を切って人馬はともに突き進み、
無限を踏みにじる、無謀な蹄で。
騎手は炎のサーベルを振り回す、
その馬が押しつぶす名もない人込みの上で
それから駆け巡る、館を巡視する王子のように、
広大で寒く、果てしない墓地を、
そこに横たわるのは、白くくすんだ太陽の微光を受けた
古今の歴史の国民たち。
70 埋葬 Sépulture
70 埋葬
もし重く陰気なある夜に
善きキリスト教徒が、慈悲心から、
どこかの古い廃墟の裏に
虚栄のあなたの体を埋葬するなら、
その時刻は、純潔の星たちが
重くなった目を閉じる時だが、
蜘蛛はそこに巣を、
マムシは子供を作るだろう、
一年中あなたが聞くことになるのは
断罪されたあなたの頭上での
狼や腹をすかせた魔女の
ひどい叫び声、
好色老人の大はしゃぎ、
腹黒い詐欺師の陰謀。
69 音楽 La Musique
69 音楽
音楽は私をしばしば捉えるのだ、ある海のように!
私の淡い星に向かって、
霧の天井のもと、または広大なエーテルのなか、
私は帆走につく。
張り出す胸とふくれた肺
帆のようだ、
私は積み重なる大波の背を乗り越えている、
夜の闇が隠すのはそれらの大波。
私は感じている、苦しむ船のあらゆる熱情が
私の中で震えるのを。
順風、嵐、それらによる大混乱は
巨大な深淵の上で
私を揺すっている。別の時には、べた凪、大いなる鏡
我が絶望のだ!
68 パイプ La Pipe
68 パイプ
私はある作家のパイプなんです。
アビシニアかカフラリア出身の
私の顔つきをよく見れば、私の主人が
ヘビースモーカーだとわかるでしょ。
彼が苦痛で満たされた時、
私は煙を出すの、藁屋のようにね、
そこでは農夫の帰りのために
料理が準備されているの。
私は彼の魂を抱きしめ揺すってあげる、
青くゆらぐパイプ網のなかのこと、それは
燃えている私の口から立ちのぼるわ。
それから私は強力な慰めのハナハッカをまぶすの、
それは彼の心をうっとりさせ、
彼の精神の疲れを癒してあげるの。
67 ミミズクたち Les Hiboux
67 ミミズクたち
彼らを守るイチイの木のなかに、
ミミズクたちは並んでいる、
異国の神々のように、
赤い目を投げかけて。彼らは瞑想している。
動かずに、彼らはじっとしているだろう、
憂鬱の時まで、
それは傾いた太陽を押しやって、
暗闇が生じる頃。
彼らの姿勢が賢者に教えるのは、
この世で恐れなければならない
動乱と運動。
過ぎ去る影に酔うその人が
いつも負っているのは、
場所を変えたがっていたことの懲罰。
66 猫たち Les Chats
66 猫たち
熱烈な恋人たちや謹厳な学者たちが
熟年になると、等しく愛するのは猫たち、
たくましくて優しい、家の誇り、
彼らのように寒がりで、家にこもっている。
学問と快楽の友である猫たちが
探し求めるのは、沈黙と闇の恐怖。
暗黒神は猫たちを葬送の駿馬に使っただろうに、
もし猫たちがその誇りを隷属状態にしたならば。
猫たちは夢想しているとき気高い態度をとる、それは
人けのない奥底に横たわる、巨大なスフィンクスで、
果てしない夢のなかに眠り込んでいるようだ。
実り多いその腰は、魔法の火花に満ちている、
そして金の小片が、細かい砂のように、
かすかに星をちりばめている、その神秘の瞳に。
65 月の悲しみ Tristesses de la lune
65 月の悲しみ
今夜、月は夢を見ている、もっとゆるやかに、
まるで美女が、多くのクッションのうえで、
うわの空の軽やかな片手によって、眠りにつく前に、
彼女の両乳房の曲線を愛撫するように。
柔らかな雪崩のサテンの背もたれのうえでは、
死ぬくらい、長い失神に身をゆだねている、
それから白い幻に視線を巡らせる、それは
花々が咲くように青空のなかを昇っている。
時にこの若い乳房のうえで、無益な物憂さから、
彼女が一筋のすばやい涙を落とすとき、
ひとりの敬虔な詩人、眠りの敵は、
彼の手のくぼみのなかに、この淡い涙をつかみ、
虹色に反映したオパールのかけらのようであるが、
それを彼のハートに入れておく、太陽の眼から離れて。
64 秋のソネット Sonnet d'automne
64 秋のソネット
それらは私に言う、君の両目、水晶のように透明、
「変な人、あんたにとって私のいいとこって何?」
― 魅力的であれ、そしてしゃべらない! 私の心が、
太古の獣の無邪気さは別として、全く苛立っているが、
見せようとしないものは、地獄のようなその秘密と、
子守女その手で長い眠りを私に起こさせるのだが、
書かれた恋の炎を加えた黒い伝説もだ。
私は情熱を憎むし、エスプリは気分が悪くなる!
優しく愛しあおう。「キューピッド」は見張り小屋で、
腹黒く、待ち伏せて、運命の弓を引き絞る。
私は知っている、彼の古い武器庫にある飛び道具、
すなわち罪、恐怖そして乱心を! ― オー青白い
マーガレット! 私のように君も秋の太陽ではないのか、
オーそんなに白く、そんなに冷たい私のマルグリット?